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藤井 UPレペティションアクション
2010年に鹿児島の藤井楽器店藤井氏が、ザウターR2アクションと同じ構造で特許「公開番号:2011-028147」を取られました。基本的な構造はザウターの項を参照して下さい。こちらではもう少し深く見ていきます。特徴
構造はザウターR2アクションと同一であるが、(バネが強いのか安全の為か)バットsprが強くなっている。正確には、過去にヤマハが行っていたハンマーspr(仮)構造が追加されている。バットスキンの負担
ザウターの項では説明しなかったが、当構造ではバットスキンへの負担が増える。一般的なGPアクション、又は、シュタイングレーバーUPレペティションアクションではレペティションレバーがバットを持ち上げる。ところがザウター/藤井アクションではジャックがバットを持ち上げる為、バットスキンの摩擦が増える。特に、実績がなくバネも強い(??)藤井案の方の耐久性は未知である。・脱進とは逆方向にスキンを摩擦することになる
・脱進時はバット回転接線方向にジャックが滑り離れていくのに対して、戻り時はバット回転法線方向に潜り込む様になる。バット形状にもよるが、バット回転軸をも傷めてしまうだろう。
負担が増えることは悪いことではない。大切なのはそれを理解・予想し、顧客への説明や対応を準備しておくことである。メーカーのジャックsprが弱いのは、この理由に因るのかもしれない。
ハンマーspr(仮)
ハンマーsprは必要か?ジャック板バネが強いと誤打弦してしまうから付けたのだと思うが、バットsprの再検討で十分ではないか?バットsprの再検討については、別途その項を参照して下さい。ハンマーsprを採用するとしても、藤井アクションのは最悪である。特許公開資料ではハンマーシャンクを加工して変テコパーツを付けている。整音・整調について考えたことがある技術者には、特に説明せずともこの問題点を理解できるはずである。どうしてもハンマーsprを採用したいのであれば、シュタイングレーバーと同じ、あの丸いクロスを採用すれば良い(このサイトでは図資料は付けない)。
もう一点、これは技術者には関係ないが、ハンマーsprは特許ではなく実用新案(プチ発明)に該当する案件だと思う。ちなみに特許制度上、実用新案はパクリOKであり、特許はパクリバレなければOKである。特許のパクリを発見した場合は無効にできるが、通報するには5万円以上は用意しないといけないのだ。
タッチ感
当アクションを採用すれば、グランドピアノの様なタッチになると宣伝されるが、正しく受け止められている人がどれだけいるであろうか?GP”の様な”タッチ感であり、GPのタッチとは全く異なる。GPのタッチ感はハンマーの重みであり、ハンマーがどういった状態にあるのかを、鍵盤を通して演奏者が感じることができるのである。に対して、当アクションによって作られたタッチ感は、安い電子ピアノと同じで、バネによって作られたバネ感なのである。GPのタッチの方が重いとかいったことはどうでもよく、GPはハンマーの情報が伝わるので重いということが重要なのだ(重いという形容詞は不適切で、あまり使いたくないが)。UPとGPの違いを知る上で重要なことであることはもちろん、アクション自体の理解に欠かせない内容である。多くの技術者が考えたことも無いであろう、鍵盤重心の設計が大きく関係してくる。バネだ何だと小細工をしたとしても、鍵盤重心という本質を理解していない発明に大した価値は無い(無意味というより、特にヨーロッパには幾らでもあるので珍しくない)。現在私が知る最高のアクションはシュタイングレーバーのアクションであるが、それでさえ以上の根本問題は一切解決できていない。